採集番号とフィールドデータ 

先日リクエストを頂いたので、本日はハオルチアのデータについて基本的なことを少々。
ご存知の方には釈迦に説法、お目汚し失礼。

輸入苗など、所謂「データ付」と言われるハオルチアを入手すると札に記載されているアルファベット+数字と横文字。
ヴェヌスタを例に取ると(画像は使い回しです)、

H. cooperi v. venusta GM292 Kenton on Sea

ヴェヌスタ

とかいう札が付いて来る。

この「GM292」部分が採集番号(Collection Number)、その後の横文字「Kenton on Sea」が原産地=フィールドデータ(Field Data)と呼ばれ、この2つが植物の戸籍のようなもの。

採集番号のアルファベットは採集者(Collector)のイニシャル、番号は採集者によって連番だったり、年/連番だったり差異がある。
このヴェヌスタの「GM」はゲルハルト・マルクス氏(Gerhard Marx)のイニシャル、「292」は通し番号になる。


採集番号が年/番号になっている物で分かり易いのは例えば、

H. decipiens JDV90/99 E of Klaarstroom

デシピエンス

「JDV」=ベンター氏(J.D. Venter)が「90/99」=1990年に99番目に採集した物、Klaarstroomの東が原産地、という意味。

この番号は採集者がそれぞれ各自で付けており別な採集者が同じ植物を採集することもあるので、同産地の同植物で違った採集番号のものもある。上のヴェヌスタなどは極狭い範囲に産地が限られており、NE of AlexandriaであろうとKenton on Seaであろうと、表現の仕方が違うだけで同じ場所を指している。GM292でもJDV94/5でも同じ産地のヴェヌスタになる。

しかし同じ採集番号で違った植物はありえない。

同じ採集番号・産地で品種名が違う場合もあるが、これはハオルチアの学名が新命名・分離統合・新種発見等のために激しく変遷しているせいでその時々で学名が違うため。
同品種で学名が変更になっている場合に混乱せず同定するために採集番号は必須。シノニム(異名同種=古い学名)が多数存在する品種もあり、採集番号が一致すればこの学名とあの学名は同じ植物を指すのだと言うことが分かる。

同じ品種名からいくつもの新品種名が分離している場合(n.n.=未記載を含む)、例えばイザベラエからからベネチア、アラベスクアが分離独立、クーペリー変種ピリフェラからイクラ、クブシエ、ホグシアが分離独立、シンビフォルミスからロゼア、カナ、ロツンダ、オルビアが分離独立…など切りがないが、これらは基本種と比べてその形状や性質、産地などで別種として独立させるにふさわしい特徴があると判断されたもの。

大雑把なくくりで以前の学名で現すと全部イザベラエ、ピリフェラ、シンビフォルミスなのだが、イザベラエが全てベネチアやアラベスクアではなく、シンビフォルミスの全てがロゼアでもない。イクラとホグシアなどは見るからに別種。

ハオルチアは小さな群落に集中して同品種が生育するため、独立する特徴=特定の産地に固有であることが多い。そのため、この品種の中のこの産地の物だけが新品種として独立という形を取る場合が殆ど。よってどのタイプが分離独立したかを確認する手掛かりになるのがこの採集データ(採集番号と産地名)になる。

同データの別クローン同士から実生したもの、枝代わりなどで多少顔が違うものはあっても、同じ採集番号なのに別種と言うことはない。万が一全く別種なのにデータが同じ物を見掛けたらそれはどちらかの札が間違っている。


採集番号+産地データ=その植物の個体識別番号、付いて来たら決して外さない、書き間違えないように注意。

個人的にはちゃんとしたデータ付の物をカタカナに直すなどもっての他と思っている。日本人は外国語に弱い率がかなり高い。島国だし言語体系が違うから仕方がない。空耳効果で違う物になる可能性が高いので分からんなら弄るなと(笑)

まぁ、輸入苗でもあからさまに札が入れ違って来ている場合もないこともないが、いずれ経験を積んだり資料を入手したり詳しい人に見て貰ったりする機会があれば間違いが判明することもあるので、怪しいと感じても札は維持したい。
多少間違った札が付いていても、データ付に拘る方なら長年育てているうちに色々調べる事も多いはずで、綴り間違いなどには自然と気が付くようになる。


◆採集番号(のイニシャル=採集者)について、ハオルチアで良く見掛ける物の一覧。

MBB = Bruce Bayer ・・・ハオルチア研究の第一人者、現在の分類の大元になっているベイヤー氏
PVB = P.B. Bruyns ・・・H.ブルインシーの命名の元にもなっているブルインス氏
GM = Gerhard Marx  ・・・ゲルハルト・マルクス氏
JDV = J.D. Venter ・・・ベンター氏
IB = Ingo Breuer ・・・ドイツの研究者、Eden Plantsのブロイヤー氏
VDV = Vincent de Vries ・・・南アのコレクター、デ・ヴリース氏
JIL = Jakub Jilemický ・・・チェコのコレクター、Jilemický氏(チェコ語の発音不明)


札コレクターの独り言っぽくなってしまったけれど、ご質問頂いた方への解説になっていれば幸いです。


ブログのネタのリクエストは常時受け付け中。
現物がないと解説しづらいものはお応え出来ない場合もありますが、何かありましたらお気軽にどうぞ。

2010/01/29 Fri. 23:53 [edit]

Category: 多肉植物(ハオルチア)

Thread:サボテン・多肉植物・観葉植物  Janre:趣味・実用

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